素人志向

備忘録

薄暗い町中華

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無性に炒飯が食べたくなった。だが、この優雅なる10月9日の土曜日は、既に残すところ4時間で終わりを告げるくらいの時間だった。つまるところ午後八時を回っていた。

 

稀に顔を出す、恐らく年金を受給しているであろう爺さん夫婦が営む中華料理屋は、既に暖簾をしまっていた。そもそもあの店は土日休みだった。レンチン炒飯も味気ないし、かといって今日は作る気分でもなく悶々としていたが、ふと駅からの帰り道に薄暗くて一見さんお断りの雰囲気を醸し出す、何とも言えない中華料理屋があったことを思い出すのに、そんなに多くの時間は必要としなかった。

家から歩いて5分くらいの場所に位置するその中華料理屋は、外見はそこそこ奇麗なものの、店内の様子が全く分からない、言い方は悪いが不気味な店だ。この店の近くに引っ越してきてそろそろ一年経つが、それでも一度も入店していない様な店と言えば伝わるであろうか。

入店したところで殺される訳でも無く、静かなるドンに出てくるような裏で実はヤクを販売しているような店ではないと理解していたとしても、やはり入店するのを躊躇ってしまう店というものはどうしてもあるわけだ。ただ、それでも炒飯の気分だった自分は意を決して、その店のスライドドアに手を掛けた。

 

店内は見た目よりも広く、4人掛けの茶色のテーブルが10席くらいあった。先客は出先帰りであろうおじさん二人が酒を飲みながら恐らく仕事の話をしていた。あまりにも普通の店内で気に取られてしまった。今までの緊張や警戒心は何だったのか。

本日のセットメニューの中に「ラーメン・炒飯セット」があった。炒飯だけでもよかったのだが、セットで750円なら頼まざるを得ない。本当に不味いラーメンでなければ、例えインスタントラーメンであろうとセットでついてくる分には嬉しい限りである。

 

水を持ってきた女性店員に注文をする。愛想はあまり良くなかったが、別に気にすることではない。自分は炒飯を食べたいだけであり、店員の愛想を含めたサービスを受けに来たわけではないから。注文して少し間が空いた後、女性店員が厨房に向かって「ラーメンチャーハン」と叫んだ。叫んだという言い方は微妙だな。唱えた?良い言い回しが思いつかない。テレビで適当な番組、何を見ていたかすら思い出せない位には内容が薄い番組を見始めた途端、厨房からカンカンカン、ジュージュージューと良い音が聞こえ始めた。他の飲食店でも意識すれば聞こえるのであろうが、特に中華料理屋は料理の音が客席まで聞こえてくるような気がする。その音は炒飯を求めている自分にとっては、超人気声優のASMRや歌姫の美麗な歌なんかよりも数倍魅力的な音である。

なんて事の無いただの喫食の一コマだが、その瞬間だけは最高の音なのだ。

 

8分だか10分くらいしてから、例の愛想の悪い女性店員がお盆を持ってきた。そこには黒い水面からひょこっと麺が顔を出しているラーメンと、彩りがあまり宜しくない炒飯がやってきた。この表現をするとあまり美味しくなさそうにも聞こえるが、別にそういうわけではない。中国人がやっている中華料理屋のラーメンと炒飯という感じがして最高だと思う。750円でラーメンと炒飯が食べられるなら、そんな上品なものは求めない。

炒飯を食べたかったが、ラーメンがこういう類の店で出すような麺ではなかったので、先にラーメンから食べた。大体細麺のちぢれ麺醤油ラーメンが多い印象だが、この店はそうではなかった。中太のちぢれ麺で食べ応えがあった。チャーシューは何故か縁が紫色で甘い味がしたが、醤油スープの塩辛さを打ち消すような風味でそこそこ悪くなかった。そして麺を一口、二口食べてから、本日のメインディッシュである炒飯に手を付けた。レンゲですくって頬張る。この瞬間を待っていたんだ。

 

その炒飯は想像以上に水気があったが、炒飯としての体を何とか成している味付けだった。つまり特段美味しいわけではなかった。ただ、ちゃんとした炒飯ではあった。

壁に貼ってあるビールの宣伝をしている矢沢栄吉に見守られながら、ラーメン、炒飯、ラーメン、炒飯と口に入れていく。酒類提供が可能な時間は過ぎていたからビールは無かったのが残念だが、まあ別に大きな問題ではない。色々な思いが頭の中に浮かびながら喫食を進める。なぜここまでパラパラじゃないのか、でも炒飯の風味はしっかりしている、ああ、今日もゲームをして楽しかったけど何故か寂しいな、FF14のメンバーはこの後漆黒エリアのID皆で行くんだったけ... DOOMしたいけど、DOOMばかりやってるのも良くないかもな。VALORANTは難しいな。Apexもやらなければいけないけれども、調子が出ないな。帰ってゲーム何かするか?いや頼まれていた技術調査もあるしそれもいいな... でも粗方片付き始めたし.... ラーメンは美味いな。と一人思いふけていたら、目の前の皿はあっという間になくなった。適当に勘定をし、その後家に帰った。

家に帰る途中、なぜか少し寂しくなった。最近配信をしてみるものの、見てくれる人は多くて5人くらいで寧ろそれ以外の人は自分のゲームやトークに興味が無いのかもしれないということや、ブログを書いても反応があまり無いから本当にタダの独り言なのかもしれないとかそういうあまり良くない事が突然頭の中に浮かんだ。一人で食べる飯の寂しさもあったのかもしれない。ポジティブに考えると、一人でも配信を見てくれたら嬉しいし、ブログも反応なくてもアクセスして記事を見てもらっているだけでも相当有難い事なのに、欲が増えているのかもしれないと。ただ、今さっき食った炒飯が美味しかったという事実だけでも本来いいのではないかとも思った。自分ひとりで体験したことをより具体的だったり、色々気にかけてみれば案外まだまだひとりでも楽しめるような気がする。人と何かをするっていうのはとても楽しくて自己肯定感も増すが、それを享受し過ぎると欲が増えてしまって辛くなるようにも思う。薄暗い町中華で炒飯を食べただけに過ぎないが、なんかとても楽しくなってきてしまった。今はそれをとことん楽しむのもありなんじゃないか。まあ良く分からなくなってきたけど、とりあえずラーメン炒飯セットがそこそこ美味しかったということだ。纏まらなくなったが、別にいいだろう。このブログは自分の考えの掃きだめなのだから。

炒飯を食っただけで、上記の様な考えが浮かんでくる自分の頭も中々愉快だなと思ってしまった。自分らしくていいんじゃないか?